痔とは、肛門がどのような状態になっているか? 痔は、肛門の構造がまねく病気と考えられます。 日本人の痔でいちばん多い痔核を例にとって説明しましょう。 肛門は、周囲にある筋肉(内・外肛門括約筋)と粘膜だけではピタリと閉じることができず、 約1mmのすき間ができてしまいます。

そのすき間をふさぐために、肛門の粘膜の下には、動脈や静脈の細い血管が草むらのように 集まった動静脈叢や平滑筋、弾性線維などの結合織がつくるクッションと呼ばれる部位が存在します。 このクッションをつなぎ合わせている結合織が30歳を過ぎ始めると老化現象でくずれはじめ、 断裂が始まります。

そして、排便をするときにいきむと、動静脈叢の血管に約200mmHgもの圧力がかかり血管が 拡張するので、断裂した結合織のすき間から動静脈叢が肛門内に突出します。これが痔核となります。

肛門を閉じるクッションを、なぜ動静脈叢でつくるようになったかのかは、まだよくわかっていません。 ただ、クッションをかたい軟骨や皮膚でつくると、毎日、肛門を通過する便が刺激となって、 炎症を起こしやすくなることが考えられます。また、肛門が炎症を起こして出血しても、 周囲に動静脈叢があると血液が豊富なので、 たくさんの白血球がきたない便の中の細菌を殺して化膿を防ぐことができます。


現代は生活環境の改善や医療の発達により、「人生80年」といわれる長寿社会になりました。 そのために本来は40年しか使えない肛門は耐用年数をはるかに超えて酷使され、 また老化現象によってクッションの結合織がこわれて痔核ができるのです。

また、人間が進化して、四つ足歩行から2本足で歩く直立歩行に移行したことも、 肛門にはキツい環境といえるでしょう。 4本足で立っている動物の脊椎は水平で、体重は4本の足に分散しているので、 肛門の周囲に大きな荷重がかかりません。

ところが人間のように2本足で立つようになると、 上体の体重が腰部や肛門の周辺に集中してかかるために、その周囲の筋肉や血管が収縮し、 血流が悪くなってうっ血します。うっ血すると老廃物や疲労物質が排出されず、 炎症を起こしやすくなり痔核の発生を招くこととなります。