各種の座剤と軟膏は、同じメーカーの製品では同じ成分のものがつくられているので、 好みによって選択してもかまいません。 しかし、基本的なこととして、いちおう使い分けの基準があります。 一般に、座剤は脱肛を含む内痔核に用いますが、 もちろん、外痔核や裂肛に使ってもかまいません。

一方、軟膏は座剤が合わない場合や嫌いな人が好んで使用されます 外痔核、裂肛、肛門潰瘍、内痔核に使いますが、 内痔核などでは座剤と併用することもあります。

<座剤、軟膏は軽度、中程度の外痔核、内痔核、裂肛に使用>
市販の座薬は、主に家庭療法を目的に製造、販売されていることからもわかるように、 重症の痔の治療や、高度な治療のために使うのは適していません。 軽度または中程度の外痔核、内痔核、裂肛に使用するのが適しているといえます。 重症の痔、高度の痔(複雑な状態の痔)の人は、 市販薬には絶対に頼らないで、専門医の治療を受けてください。

<ステロイドを含むものと含まないもの>
座剤、軟膏は、成分にステロイドを含むものと含まないものとに大別できます。 一般に座薬は、痛みを止める麻酔薬(リドカイン)や、出血に対して止血作用がある血管収縮剤、 かゆみ止めの抗ヒスタミン剤、さらには腫れに効く創傷治癒促進作用のある成分、 末梢の循環を改善する作用がある成分、細菌感染に効果がある抗菌作用を持つ成分など、 各種の薬剤成分を組み合わせています。

各種の痔のさまざまな症状に総合的に対処できるようになっているわけです。 しかし、これらの成分をたくさん配合しても、実際はなかなか、痔の腫れがよくならないことが多いのです。 そこで、ステロイドが配合されるようになりました。 ステロイドは、正式には副腎皮質ホルモンとか、ステロイドホルモンといいます。 外用すると、あらゆる腫れや炎症に劇的に効果があります。 数十年前に発見され、まさに夢のような薬だと重用されるようになりました。

当然、痔の座薬にも配合するようになったところ、腫れや腫脹にとてもよく効くことがわかり、 市販薬だけでなく、病院の薬にもステロイドを配合するものが多くなりました。 大変便利でよい薬ですが、その反面、感染しやすくなったり、 皮膚が過敏症になったりと、副作用も強く起こります。 そのため、長期間使用するのは危険で、注意をしなければなりません。

<急性の腫れにはステロイドを比較的多く含むものを使用>
痔の種類や症状によって、ステロイドを含むものを使うほうがよい場合と、 使わないほうがよい場合とがあります。ステロイドを含んでいる座剤、 軟膏は、腫れや腫脹がひどい場合や、急性型で症状がひどい場合などに 症状を早く改善するために使用します。

ただし、細菌感染を起こして 炎症がある場合や化膿しているような場合は、使用するとかえって炎症が悪化し、 広がってしまいます。患部が赤く腫れて熱があるような場合は、 絶対に使用してはいけません。具体的には、痔の腫脹が急に激しくなって、 痛みがあり、腫脹をくり返すような場合は、副腎皮質を含む座薬。

たとえば、ボラギノールA(座剤。武田)やプリザエース(座剤。大正)の ような比較的多くステロイドを含む座薬を一〜二週間の短期間だけ使用してみるとよいでしょう。 便秘の改善などに努めながら、これらの薬を併用すると、 痔は短期間で改善すると思われます。

<慢性で症状が比較的安定しているときはステロイドを含まないものが適切>
一方、ステロイドを含まない座剤、軟膏は、比較的症状が軽い、 慢性タイプの痔にくり返し長期にわたって使用する場合に適しています。 また、急性の裂肛でも、ステロイドを含まない軟膏を使用します。 具体的に製品を挙げると、たとえば、ボラギノールM坐剤、M軟膏(武田)、 新エフレチン(座剤と軟膏。三宝)、ドルマイン痔軟膏(ゼリア)などがあります。

<急性裂肛はステロイドを含まない軟膏を>
急性裂肛は、肛門の粘膜の外傷で、痛みが強いのが特徴です。 そのため、リドカインなどの麻酔薬やアラントインなどの創傷治癒促進作用がある成分を含み、 ステロイドを配合していない座剤、軟膏を使います。ステロイドは傷の治りを妨げる作用があるため、 ステロイド配合のものは適していません。

製品名で挙げると、ボラギノールM軟膏(武田、天藤)、 ドルマイン痔軟膏(ゼリア)、アヌゾール軟膏10g(三友ー日邦)があります。

<ステロイド配合のものを使ってはいけない場合>
前述したように、化膿や発熱など細菌感染の症状があるときは、 絶対にステロイドを含む座剤や軟膏を使ってはいけません。 かえって、炎症を悪化させることになります。 当然、細菌感染によって起きる肛門周囲膿瘍や痔瘻に使うのはタブーです。

また、慢性の内痔核で、不潔にしていて肛門の表面から細菌に感染し、 肛門の周囲が激しくただれて赤く湿疹ができているような場合も、 ステロイドを含む座剤、軟膏を使ってはいけません。 この場合も、使用すると炎症を悪化させます。実際、長期にわたってステロイド配合の座剤を使用して、 肛門の周囲が赤くただれているケースは珍しくありません。

ステロイド性皮膚炎になると、簡単には治りにくくなります。 こういう場合、ただちに使用をやめてください。 また、たとえ、ステロイドを配合したものを使用するほうがいい場合でも、 長期間使い続けないようにしましょう。

<痔の外用薬の使い方・坐薬>
1.坐薬をとり出す
2.きき手の親指、人さし指と中指の先端で坐薬をつまむ
3.坐薬を肛門に静かに挿入する
4.坐薬が肛門に完全に入るまで、人さし指で坐薬を押しこむ

<痔の外用薬の使い方・軟膏(塗る場合)>
1.適当な大きさのガーゼに軟膏を押し出す
2.患部にガーゼをあてて軟膏を塗る

<痔の外用薬の使い方・軟膏(挿入する場合)>
1.軟膏に挿入管をつける
2.軟膏を挿入管から少し押し出し、挿入管に塗る
3.肛門の中へ挿入管のつけ根までしっかり入れて軟膏を十分に押し出す