痔の薬には、坐薬、塗り薬(軟膏、クリーム)の2種類の外用薬と、 内服薬(飲み薬)を合わせて3種類があります。これらの剤型の薬を、 痔の種類と症状に合わせて使い分けることが必要です。

<坐薬>
挿入しやすいように紡錘形をしたやわらかい固形の薬で、 肛門内に入れるととけて、痛み止めや止血の作用があります。裂肛や痔核に用います。

<塗り薬(軟膏、クリーム)>
肛門の周囲に塗るタイプと、チューブの先端を肛門にさして薬を注入するタイプがあります。 効能は、痛み止めと止血作用で、坐薬と同じように、 排便時に通過する便が肛門の粘膜を刺激しないようにガードし、 肛門の負担を減らす働きがあります。肛門の出口付近にできて、坐薬を使えない裂肛や痔核に使います。

<内服薬(飲み薬)>
病院で痔の治療に用いる内服薬には、便秘のときに便をやわらかくする緩下剤や、 炎症を抑える消炎薬、抗生物質などがあります。 <ステロイドホルモンが含まれている薬剤>
薬品名 剤型
ネリプロクト 坐薬と軟膏
プロクトセディル 坐薬と軟膏
ヘモレックス 軟膏
強力ポステリザン 軟膏
ポステリザンF 坐薬

<ステロイドホルモンが含まれていない薬剤>
薬品名 剤型
ボラザG 坐薬と軟膏
ヘモリサット 坐薬
ヘルミチンS 坐薬
ロートエキス・タンニン 坐薬
G−NON 坐薬と軟膏
ポステリザン 坐薬と軟膏
●どういうときに内服薬を用いるか
痔の市販の内服薬は、座剤の併用または補助薬としてよく用いられます。 内服薬だけで痔を治療することは、非常にまれです。痔の治療は、 排便などの生活面での改善が基本で、まず、優先順位としては座剤、 軟膏などの外用薬が先で、次が内服薬ということになります。 痔の内服薬は、一般に便を軟らかくする作用があるものが多く、 また、腫れや痛みを取る作用もあります。そのため、慢性の痔が悪化したときとか、 腫れが激しく、便秘ぎみで座剤だけでは効果があまりないときに 併用薬として利用されます。

●内服薬の一般的効果
市販されている痔の内服薬の効能を見ると、炎症や腫れを取って、 間接的に出血や腫れを軽くするとか、生薬が配合されていて便を 軟らかくして症状を緩和させようとするものが多いようです。

●痔の市販内服薬の分類と成分、作用
痔の市販内服薬の薬理作用には、止血作用、血管補強作用、 うっ血改善作用、消炎酵素作用、末梢血流改善作用、吸着作用、 血流増加作用、生薬(漢方作用)、舌下錠形態作用などがあります。

●市販の内服薬の効能効果に基づく分類(山田試案)
以下に薬品名が出てきますが、*印は生薬のみを主成分とするもの、 『』カッコのものはとくに薬局でよく売られているものです。

①止血が主な作用のもの 
主な含有成分・・・・・・カルバゾクロム(止血作用)、 ルチン*(血管補強作用)など。ほかに、ブロメラインなどを含む。

・該当する市販薬品名 内服ボラギノールEP*<2g>(武田、天藤。生薬を含む)
フジバイゾールS錠*(湧永。生薬を含む)
『プリザSカプセル』(大正。生薬なし)
内服リナロン(伊藤。生薬なし)オセロ痔内服カプセル(福江。生薬なし)
エスジール錠(エスエス。生薬なし)
エフレチンエース顆粒(三宝。生薬なし)
ぢモール内服薬(ゼネル。生薬なし)
ヘモゾールカプセル(エーザイ。生薬なし)
ヘルスカプセル(小林。生薬なし)

②腫脹血流改善を主な作用とするもの
主な含有成分・・・・・・イノシトールヘキサニコチネート(うっ血改善作用)、 塩化リゾチーム、ブロメライン(消炎酸素作用)、ビタミンE成分(末梢血流増加作用)など。

・該当する市販薬名 『プリザSカプセル』(大正。生薬なし)
アスト痔の内服薬(アスト。生薬なし)
新コリミジン錠(日水。生薬なし)
ヘモゾールカブセル(エーザイ。生薬なし)
ヘモナーゼP(森下仁丹。生薬なし)
内服リナロン(伊藤。生薬なし)
ヘルスカプセル(小林。生薬なし)

③生薬(漢方)
主な含有成分・・・・・・生薬を主体とし、とくに大黄、甘草を含むもの。
・該当する市販薬品名 『津村漢方乙字湯エキス顆粒』(ツムラ)
* サンワ乙字湯エキス粒(錠。三和)
* エスエス漢方乙字湯エキス顆粒(エスエス)
* 強乙字痔退散(剤盛堂)
* 『小太郎漢方痔ぢ内服薬』(錠。小太郎)
* 摩耶字散/摩耶字錠(摩耶堂)、摩耶字湯(煎。摩耶堂)
* ヘモゼット(剤盛堂)
* ジオトルミンカプセル(松浦)
* モリヂーネン(日邦)
*(+*薬用炭) オセロ痔内服薬(福江)
*(+*薬用炭) Gオキソ錠(日新/滋)
*(+*薬用炭) +*印の薬用炭は吸着作用があります。

④舌下錠
動物静脈血管叢エキスを主成分としていて、外痔核、内痔核の腫脹に効果があるといわれる。
・該当する市販薬品名
ヘモリンド舌下錠(扶桑)

⑤ビタミンEを主な成分とするもの(コハク酸トコフェノール)
血流をよくして、うっ血を取り、裂肛などや痔核全般に効果があるといわれる。
・該当市販薬品名 
内服ボラギノールEP(粒。武田)
内服アイドリン(吉田)
バロナS内服薬(全薬)
正規の漢方薬で痔に効果があるものでは、乙字湯のみがよく市販されていて、 痔に多少効果があることが知られています。 しかし、便通をよくして、腫れを取り、間接的に効果が出る程度です。

ほかの漢方内服薬の効果についても、実際の効果はあまり期待しないほうがよいと思います。 また、甘草などを含むものには、高血圧の薬と併用したりすると副作用が強く出るものもあるので、 注意が必要です。痔に効果があるといわれる漢方薬について、 症状別に漢方薬の名前と効能、効果、副作用を紹介しておきます。

◆裂肛、痔核に乙字湯
裂肛、痔核には、乙字湯がよく知られ、使われています。 適用は、体力中位で、衰弱していないもので、便秘などの傾向があるもので、 裂肛、痔核、肛門または陰部の疼痛、軽度の出血などに効果があります。 重大な副作用として、間質性肺炎、偽アルドステロン症、ミオパシーなどが知られているので、 服用してみて合わないような感じがしたら、すぐに中止しましょう。

◆痔核に大柴胡湯
適用は、肝機能障害、胃腸カタル、痔核などです。副作用として、 下痢、間質性肺炎(重症例があります)などがあります。ほかに、 痔核に効果があるといわれている漢方薬に、桂枝茯苓丸、大黄牡丹皮湯などが挙げられています。

◆脱肛に補中益気湯
適用は、消化機能の衰え、四肢倦怠感が著しい虚弱体質で、 夏やせ、胃下垂、痔、脱肛、子宮下垂、多汗症と書かれています。

◆脱肛の痛みに当帰建中湯
適用は、疲労しやすく、血色のすぐれないもので月経痛、 痔、脱肛の痛み、と記載されています。

◆痔出血にはきゅう帰膠がい湯、三黄瀉心湯
きゅう帰膠がい湯の適用として、痔出血が記されています。 虚弱で胃腸の弱った人、悪心や嘔吐のある人には向かないと書かれています。 三黄瀉心湯の適用は、比較的体力があり、便秘傾向のもので、 高血圧のぼせ、鼻血、痔出血、血の道症、肩こり、更年期障害などと記載されています。